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第一幕 『死に損ないと少女』
検査が終わり、帰宅し、食事を摂り──その日は、それで終わった。だが、隆義はベッドに横たわりながら、あの声の事をまだ気にしている。
「……確かに、声が聞こえた。 それは間違いない」
頭を蹴られたせいで耳がおかしくなったのか? しかし検査の結果は〝異常なし〟だ。
灯りが消えた部屋は、ただ窓の外から街の灯りが入るだけで薄暗く、雷雨はまだ降り続いている。窓の外からは時々稲光が走り、カーテン越しに部屋を照らしては大きな音を響かせている。
風も凄まじい。時折、窓がガタガタと音をたてて揺れる。その音と全身を蝕む痛みのせいで、隆義はなかなか寝付けない。しかも、とどめに正体不明の声が気になるとあれば、尚更寝るどころではなくなっていた。
「……眠れない」
ついにしびれを切らした。隆義はむくりと上体を起こし、自分用の小さなテレビのスイッチを入れた。しかし、このテレビはテレビ放送がアナログだった頃の古い物で、現在のデジタル放送を見る事はできない。もちろん画面には何も映らないが──
隆義はさらに、すぐ隣に置いてあるゲーム機のスイッチを入れた。これもなかなか古い物で、たちまち砂嵐のようだった画面が黒一色になり、ゲーム会社のロゴが表示される。
そして、無言のままコントローラーを握り、スタートボタンを押す。ゲームが始まり、画面にはロボットの姿が表示されていた。
「……組み合わせ、少し変えるか」
静かな呟きと共に、右目が画面を睨んだ。瞼が腫れた左目は見えない。しかし、画面の中にあるロボットの部品と武器を、慣れた手つきでで組み換えていく。彼はこうして、流行も廃れた古いゲームを黙々と遊んでいたのだ。
積載量の高い太めの脚に、上半身を軽い部品で組み、残りの積載量を武器の重さに回す。
組まれた機体は、防御力も速度も低い中途半端な出来だが、積載量の高さを活かして、攻撃力と弾数が多い武器を満載する。非常に攻撃力の高い組み合わせだ。
機体のセッティングを終えた隆義は、ミッション選択画面に移動し、作戦に挑む。
外から響く雷の音と風の音は、まだ激しい。時間が過ぎ、夜も更け、隆義は黙々と作戦をこなしている。だが、さすがにもうすぐ午前二時になろうか、ようやく眠気がやってきた。
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