2杯目 / 小さな神々

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破壊された壁が自己修復を始めている。穴が閉じきる前にこいつを中に押し込めないと防衛圏外まで影響が出かねませんね。 「この姿と境界干渉力からして『ヤヲヨロヅ』種に間違いありません......8年振りに現れましたか」 人間のような体に地面まで届く腕が20本。首の先には何もなく手のひらに目と思われる器官があり、東洋の仏教で信仰されているセンジュカンノンの如く扇状に18本の手腕を広げ眼球は私を照準しているようです。 異形の"神"はズシンズシンと大地を踏み荒らしながら近付いてくる。 「すぅ......はぁ......」 深呼吸。心を落ち着かせます。 「参ります。CageClose!」 足下から風が螺旋状に吹き出す。風が砂を巻き上げ一瞬で広がると同時に小規模の境界が発生した。 これが私達『神の子』が持つ能力の1つ。この境界の中でなら私達は神に等しき力を行使することができるのです。 「Randomadjusting,outside,sphere,denied」 手のひらを前に突き出し唱える。同時に手のひらの紋様が輝き出した。 呪文というわけでは無いのですが、自分の中にあるイメージを固めるために言葉を紡ぎます。こうする事で大きな力も安定して扱えるんです。 「自分でやっているとはいえ、やはり物凄い能力ですね......」 乱数調整(ランダムアジャスティング)。自らの境界範囲内におけるあらゆる『確率』を操作する力。 「さぁ、来なさいヤヲヨロヅ。御身に傷を付けたければね」 私が作り出したのは巨大な"真空の壁"。大気を構成する分子の存在確率をゼロにするだけですが、巨大なヤヲヨロヅの侵攻を妨げるほどの真空を維持するにはかなりの集中力が必要になりますね....。 「歩みを止めましたか。足止めは成功でしょう」 反物質で造られたヤヲヨロヅの体が大気圧で今の形状を成しているなら、真空ではやはりダメージを避けられない筈です。
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