四月一日

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『美智代、あなたはね、私と、明男の子なんです』 やはり雷鳴が轟いた。開けてあった窓から大粒の雨が入り込み、カーペットに真っ黒の染みが広がっていく。 近親相姦。 ふと単語が脳内に浮かんだ。 これほど――生々しいものなのか。 私が明男にいちゃんと呼び親しんでいた男が、本当の父なのか。 指の震えが止まらなかった。 『お母さん、本当なの』 『ごめんね、美智代』 一体、私は何のために頑張ってきたのだろうか。何を信じればいいのだろうか。 私が明男にいちゃんと呼ぶのを、彼らはどんな眼差しで眺めていたのだろう。 滑稽だったに違いない。 むしろ、明男にいちゃんが私に手を出さなかったのが不幸中の幸いか。 浮気な兄のことだ、有り得ない話ではない。 そんな問題なんだろうか。 『お母さんね、いつか伝えようと思っていたの』 『美智代、本当にごめんね』 『美智代、メールをよんでるかい』 『美智代――』 続けざまに何通ものメールが届いた。ぴろん、という音が虚しく響いた。 明日、辞表を出そう。あんな会社、やめだ。もっと私のことをちゃんと見てくれる会社に就こう。キャリアを積んだ今なら、どこか数社くらい、私を拾ってくれるに違いない。 携帯が鳴った。電話に切り替えたらしい。何度も切れては鳴った。 「もしもし――」 「みっちゃん、早まっちゃダメよ!」 息せき切った声だった。母の声だ。 「お母さん――」 まだ雨の勢いは弱まらない。酷く体がだるい。横になろうとベッドを見ると、お母さんと明夫にいちゃんがその体を抱き合うのが目に浮かんだ。 「美智代、もう一度、よく聞きなさいよ」 「ねえ――お母さん、」 「今日は、何月何日だい」 「だから、あのね――」 「美智代ッ、今日は何月何日だい」 「え、――あ――今日は――」 どうしてそんなに日にちを聞くのだろう。手を伸ばして、インクの滲んでしまったカレンダーに目を凝らした。 「えっと――三月のね、」 いや違う、今日は三月じゃない、今日は―― 「どうだい」 「四月――、一日――」 「そう、エイプリルフールだよ」
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