四月一日

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ふっと肩の力が抜けていくのが分かった。頭が重い。勢いよくベッドに飛び込んだ。大丈夫、私しかいないよ。 「あの、お母さん――」 「だからエイプリルフールなのよ、今日は」 「じゃあ、明男にいちゃんがお父さんっていうのは――」 「嘘に決まってるでしょ、それにみっちゃん、明男との年の差を考えてごらんなさい」 「そんな――あ――そうね、確かに、そうね――」 「いくら明男でも、そんなに早くはないよ」 ああ、そうか、そうだ。私と明夫にいちゃんは三歳しか違わないのだ。そうだった。確かに、いくら女好きの兄とはいえ、三歳じゃまだ未熟すぎる。 「それに、明男にはこの母を羽交い締めにする度胸なんてありゃしないよ」 あっはっは、と携帯越しにお母さんが笑った。そりゃないぜ、と懐かしい声がした。 「明男にいちゃんも、側にいるのね」 「代わろうか――よお、美智代、久しぶりやのぅ」 「明男にいちゃん――」 「なんや嬉し泣きか、照れるのぅ」 「泣いてなんかないよ、明男にいちゃんなんでしょ、あんなこと考えたの」 「はは、バレてもうたか。けど母ちゃんも乗り気やったやで――アンタ、もうどき!」 はよ結婚して出て行け、お母さんが怒鳴った。とうの明男は笑って受け流しているだろう。 「みっちゃん、代わったわ」 「相変わらずなのね」 「みっちゃん、本当に大丈夫なんか」 急にお母さんの声が神妙になった。 「みっちゃん、なんや溜め込んだらあかんよ。お母さんで良かったら、いつでも言ってよ」 「全然平気よ」 「どこがよ。声だって暗いし、メールもそうよ。いつものみっちゃんならすぐに気づくでしょう」 「――仕事、上手くいってないの」 「ほれみなさい、だからあれほど言ったでしょう、お母さんの所にいなさいって。無茶してよそで就職なんかするから――一年や二年なら面倒見てあげれるのに――」 「お母さん、私、本当に大丈夫よ、だって大好きなお母さんと明男にいちゃんの声が聞けたんだもの」 「それならええんやけどね――」 「あとお母さん、明男にいちゃんにも言っておいて欲しいんだけどね――エイプリルフールって、午前中だけなのよ」 返答はなかった。きっと時計を確認しているに違いない。携帯を持ち替えて、お母さんを待った。
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