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「あれま、ほんとね、そりゃ十時を回ってたんじゃ、みっちゃんのことだもの、本気にさせちゃったわね」
「ううん、私ったら今日が四月なのも気づいてなかった」
「みっちゃん、昔からそうね、ピンチになると注意力が散漫になるの」
「お母さんの子だもの」
「あら、みっちゃんまで明男みたいなこと言うのね、お母さんを悪者にして、泣いちゃうわよ」
ふふっと笑ってしまった。お母さんに涙は似合わない。強いお母さんでいてほしい。
「お母さん、もうあんな嘘はやめてよ」
「ほんとにごめんね、みっちゃん。明夫にもキツく言っておくわ」
「お父さんのこと、私、信じてるのよ」
「本当にいいお父さんだったわ、みっちゃんの目元によく似ていてね――」
「ねえお母さん、私、明日も早いのよ」
「そう、けれど、少しだけだけど、みっちゃんの声が聞けてよかった」
「私もよ」
「いつでも帰ってきなさい」
「ありがとう、お母さん」
通話が切れる間際、好きだよ美智代、と明男にいちゃんが言ってくれたのが聞こえた。ちゃんと届いたよ、明男にいちゃん。
雨はもう止んでいた。雷も聞こえない。窓は開けたままにして、乾いたタオルで飛び散った雨粒を拭いた。
カーペットに染みてしまったのは新聞紙を押し当てて水気をとった。
ぴろん、携帯の着信音が鳴った。
お母さんからのメールだった。
『みっちゃん、ファイトo(・`ω´・)○』
たまらず涙が一滴、画面に落ちた。
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