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ほかにも、このネーミングセンスのかけらもない斎野がつけたと思われるあだ名はある。
「ゼロ君も待ってるんですけどー!」
だから、なんでお前は僕がここにいると思ってるんだ。
思わず、包帯の上から傷口をいじる。早くここから立ち去ってほしいのに、斎野は動く気配がない。出るに出れなくなったため、そこに立ち尽くしていた。
『ゼロ君』というのが僕、斎野同様、文芸部の一員である名瀬 麗衣(なせ れい)のあだ名だ。
斎野は否定しているが、僕と麗衣は絶対に斎野がつけたあだ名だと思っている。あいつのことだ。麗衣(れい)を格好良く『ゼロ』と読んだとか、そんなくだらない理由だろう。
年中脳内お花田畑、単純馬鹿、早く出て行ってくれ。頭の中でありったけの悪口に似たあだ名を考えつつ、あいつが屋上から立ち去る時を待った。
「いないの?」
いません。
「いるじゃん!」
左から飛んできた声に、保っていたバランスを崩しかけた。一瞬だけ地面が近くなった気さえする。
いやいやいや。ちょっと待て。
今の今まで、一言も喋っていないはずだ。無意識に口を動かして、問いかけに答えたとでもいうのだろうか。突然のことに、変に心臓がうるさい。ホラー映画を見た時でも、こんなにうるさくはなかった。
何度か深呼吸をし、落ち着く。そうして、ぎこちなく左を向くとフェンスの穴からこちらを見る、二つ結びの生首__ではなく、斎野がいた。僕は寝起きを装って、あいつのほうを見た。湿った風で双方の黒髪が揺れる。
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