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「K君がさぁ、五回くらい名前呼んでも出てこないから、出て行こうって思ったらいたんだよ! K君!」
……伝わっているのか、これ。
国語の成績が危うく一に届きそうな人間でもいえる。説明へたくそ、と。
話を聞いた麗衣はよく分からない説明に、きっと目を回しているに違いない。ややあって、躊躇いがちにメモ帳にペンを走らせた。
『そうなんだ』
ああ、これは伝わってない。
麗衣が簡潔な返事をするのは、伝わっていない証拠だ。もしも、伝わっていたとしたら『そうなんだ。大変だったんだね』と書くだろう。
短いからこそ、頭の中で内容を理解しようとしているのだ。
「屋上、景色良いなぁ。鍵が開いてたから、入ってみたんだけど」
なんだ、僕を見つけたのはミラクルか。まあ、斎野のことだからそうだとは思っていたけど。
つまるところ、僕を探してふらふらしていた斎野が偶然、屋上が開いていることに気付き、あだ名を呼んで、歩き回っていたのだろう。そしたら、フェンス裏に隠れているのを見つけた、と。
こう考えると、偶然という言葉は便利だ。
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