都市伝説

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 しばらくして、ナイフを少し上向きにし、右へと引き抜く。勢いよくしたせいで再び鮮血が流れ出し、生ぬるい液体が腕をつたった。床に転々とある血だまりは溢れだした血の量に比例して、ゆっくりと広がっていった。  見るだけで吐き気のする傷口の周辺を、ナイフでかき回したい衝動に襲われる。だが、さすがにそんなことをすれば、大惨事になるのは目に見えていた。それに、傷口をえぐるのは目的外である。  血のように湧き出た破壊衝動は、唇を強く噛み締めることでコントロールした。  何気なく自分の手を見ると、酸化したのか少しだけ黒くなった血で染まっていた。べたつく汚れた手に綺麗だと感想をいだきながら、見とれていた。僕と言う人間がここに存在しているのを証明しているから、そう思えるのだろうか。  貧血なのか、気がふれたのか確かではないが、ひたすらに見入っていた。  電気の明かりに反射して血が鮮やかに見えるナイフを、少しばかりもてあそぶ。満足感と達成感しか得ていなかった。だが、この普通ではない状況下、いつも通りの行動をしたほうが良いに違いない。  そう言い聞かせることで、この行動を肯定した。  少しだけ、時間が経った。  あたりに鉄の匂いが微かに漂う中、力を緩め、そっと唇を舐める。紛れもなく鉄の味がした。  懐かしい壁時計の時を刻む音が、段々と戻ってくる。 「……あり得ない」  その声は自分の物とは思えないほど、擦れて、強張っていた。  そう、こんなことあり得るはずがないのだ。  ぼんやりとした意識の中、天井の片隅を見つめながら、放課後のことを記憶から引きずり出した。
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