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今日ほど、死にたいと思ったことはないだろう。
灰色の薄暗い雲を眺めながら、屋上の縁に立っていた。
眼下に広がる街を眺めて、ため息をつく。あと一歩、二歩、踏み出せば、サラリーマンやおじいちゃん、おばあちゃんが行きかうアスファルトの地面に、あっさりと叩きつけられるだろう。
柵の向こう側には、クーラーを動かす機械がある。姿を見られることは、まずありえない。
金臭いフェンスに背中を預け、このまま無抵抗で真っ逆さまに落ちられたら、どれだけ楽だろうと考えていた。
当然ながら、考えを実行に移す勇気はない。気力は十分にあるのに、ずっと死ねずにいた。もしかすると本能的に体が、ここから飛び降りることを拒絶しているのだろうか。
今日生きたかった人の今日を、明日を生きたかった人の明日を奪い取り、無意味に呼吸するために使っている。
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