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あれから一切津軽と話していない。
…もう1週間だ。
いい加減素直になれ!俺!
「ソネットは14行から成る定型詩で………って!鶴ちゃん聞いてる!?」
「ぅあっ、悪い」
そしてあんなことになったのに、浅井と俺の朝自習タイムは未だに続いている。
不思議と…気まずくないんだよなぁ。
「あれから…さらに集中力なくなってるよ?」
「そりゃ…当たり前だろ」
誰のせいでこうなったと思ってんだよ…!涼しい顔しやがって!
すると…浅井はまた《あの時》のように俺に近付いてきた。
「宮沢賢治の代表作を3つ答えよ」
「えっ!?あ、あぁ。[注文の多い料理店][やまなし][風の又三郎]…。」
「宮沢賢治の幼少時代の異名は?」
「[石コ賢さん]」
「①段落で、マサトのレンに対する感情の昂りを最も強く表現している部分を答えよ」
「えっとー…[愛の洪水]?」
「②段落でマサトが行った、レンへの不器用な愛情表現とは?」
「料理」
なんだよ!?
なんで急にこんな至近距離で問題だしまくるんだよ!?
しかし不思議とどの答えももするり
と浮かんできた。
脳裏に問題集の浅井のアドバイスが
焼き付いているおかげだ。
「鶴ちゃん、よく頑張ったね。」
浅井はパチパチと控えめに拍手をして俺の手を握った。
「っ…手ぇ握んな」
「ごめーん」
浅井は俗に言う[てへぺろ]をして、再び真顔になった。
「これを始めて2週間で…こんなに成長するとは思わなかった。最初は宮沢賢治のことわかってなかったのにね」
「成長って、何がだよ?」
「そりゃあ、学力だよ。前回の試験問題を中心に進めていったんだけど…もうすっかり身になってるね」
「そ、それは」
「現代文の川中島先生は3週間はやれって言ってたけど、もう充分だな。追試は満点取れる。
それにこれ以上教えて僕を抜かされても困るし…。
今日でこの朝自習タイム、終にしよっか」
「はぁ!?」
俺はとりあえずそう言うしかなかった。まさか突然…こうなるだなんて
思いもよらない。
「ほら…これも少しは役に立ったでしょう」
浅井は俺の問題集に口づけした。
その軽やかな水音だけで体が跳ねてしまう。
「あぁ…たくさんアドバイス書いてくれて…ありが」
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