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キーンコンカンコーン――。
ウェントミスターの鐘が鳴り響く。大きくそびえ立つビッグベンは、今日も時を刻み人々を見渡している。
そんな、ロンドンの象徴たる時計塔がよく見える住宅街の一角に、フラットに挟まれて小さく構えた二階建ての住まいがあった。表札にはハートロックという名前と、消えかかった探偵事務所の文字が彫られている。
扉からは何やら騒がしい声が漏れている。行き交う人々は不審な視線を向けているが、今まさに扉の前へ現れた黒い髪の少年は表情一つ変えず、そして躊躇いなくチリンチリンと鈴を鳴らした――。
「今帰りましたー。……やっぱり、またやってるんですね」
黒髪の少年――十文字 一月(じゅうもんじ いつき)は、鞄を棚に置くと屋内の惨状を瞬時に理解してはため息まじりにそう言い放った。
「おかえり、一月くん。今ちょうど一勝負着いたところよ」
彼の呆れなどいざ知らず、迎えた家の主――エリス・ハートロックは、得意げな顔で微笑んだ。彼女の手にはトランプカードが握られており、机を挟んで対面する男性は机上に頭を突っ伏している。
「まったく、今度は何を賭けたんですか? というかクラークさんも懲りないですね……」
一月の一声に応えるように、むくりと顔を上げた対面の男性。その顔は酷くやつれており、エリスとの勝負事に大敗した結果を物語っている。
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