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第二幕 『災禍を呼ぶもの』
月は沈み、闇が白んでいく。太陽は今日も顔を出し、空を昇っていく。
また一日が始まるのだ。人々は幸せと平穏を祈りながら、一日の始まりを迎えようとしている。朝の運動、朝食の準備、親兄弟を起こす者、その様子は様々だが──
「隆義、起きんさーい」
母の声と、戸を叩く音が同時に響く。眠り心地だった隆義は、その音で夢の中から現実へと引き戻された。
「……解った」
隆義は小声で返事をしつつ、面倒くさそうな表情をした。だが、太陽の光はカーテンの隙間から差し込みつつある。
「ふにゅ~……」
きゅーちゃんも音で叩き起こされた様子で、ふわふわと浮遊しながら目をこすっている。
「きゅーちゃん、おはよ。」
「うん。たかよし、おはよ~」
小声で会話しながら、二人は同時に欠伸をすると、そのまま下の階へと下りていく。
既に下の居間では、隆義の母・日向と──姉の菊花が、朝食を食べていた。よく焼けたトーストに、ハムエッグとサラダが、テーブルの上に並んでいる。
時計を見ると、既に七時も四十五分を過ぎた所で、母は職場へ、姉は自分の学校へ行く為に若干急いでいる様子だ。
「隆義、ちょっと遅い」
「パンも冷めてしもうとるよ」
「……あぁ」
まだ、ぼーっとしている頭を掻きながら、隆義はテーブルの前に座った。そして、トーストを手に取ってバターを塗り、その上から自家製のマーマレードを塗りつけていく。
「……」
隆義は、不意に台所の方に顔を向けた。そこには、一家の食卓を見守るきゅーちゃんの姿があるのだが……。
美味しそうな朝食の香りを前に、口からよだれが出そうになっている光景が、隆義の目に入った。
「…………痛ッ」
「どうしたんよ隆義?」
「間違って頬の内側を噛んだ……」
「慌てるけぇよ。落ち着いて食べんさい」
きゅーちゃんのせいか、痛みのせいか、あるいはその両方か──大粒の汗を額に浮かべながら、隆義は朝食を咀嚼するしかなかった。
(これ、後で絶対口内炎になるな……)
トーストに交じる赤い鉄分の味を感じ取り、隆義は半分諦めながら思った。
きゅーちゃんの方は──
(おいしそうなにおいー……うちもたべたい~~~~)
──心の中では、激しくゴロゴロと転がる程の勢いで、絶叫している。
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