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「いや、そういうわけじゃ」
「もちろんな!」
私の発言に被せるようにぬいぐみが力強く言う。
「おっちゃんかて若いもんには負けるつもりもない。まだまだ現役で働くつもりや。再就職なんてまっぴらゴメンだしな。」
再就職?どこに?
「でもやっぱりな。」
ぬいぐるみはかまわず話し続ける。
「君にはもうおっちゃんが必要ないやろ?そうすると頑張りたくても頑張れないわけや。なら再就職もやむをえないとも考えてまうんや。」
「あの?・・再就職って?」
私は口を挟んだ。
「ああ。やっぱりおっちゃん的には今のクマの経験を生かして、ウサギとかにしようかなとか思ってんねん。どっちも哺乳類系統やし、仕事の勝手も分かってる。面接にも有利や。」
また一人でべらべらと話し始める。
質問に答えてないし。面接?何の?
当然の疑問が湧き出る中で、私はこのぬいぐるみの声にどこか、から元気というか無理して明るく振舞っているように感じた。
なぜだろう?
「だから、全然かまわんで。正直、久しぶりに元気そうな君の顔が見れておっちゃん満足してんねん。いや・・・ほんとにな・・・」
ぬいぐるみの声は少しずつ震えだした。
「こんなに・・おっきくなってな・・立派なもんや。」
そこから先は涙で言葉になってなかった。
ようやく分かった。なぜ私がこの違和感の塊といえる状況を案外すんなり受け入れているのか。
間違いなく私は、小さい頃このぬいぐるみと一緒に過ごし、会話し、語ったのだ。
いつも側にいて、私を見守ってくれていたのだった。
「おっちゃんはもう戻るわ。君はもう一人で生きていけるみたいだしな。」
ゆっくりとぬいぐるみは立ち上がった。
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