第1章

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犯罪抑制政策とは仮の名で正式名称はまだなく、どうにかしたいという思いだけで動き始めた政策だったためかどういう対策を取っても効果はなく、手を尽くしきったかのように官僚たちの間では諦めムードが広がっていたのだった。 そんな時だった、東教授がノーベル生物学賞を受賞したのは。 犯罪件数の増加で頭を悩ませていた官僚たちもこの時ばかりは喜び忘れ、宴を開いたものだった。 「東教授、おめでとうございます」 「いえいえ、皆様のお力添えのおかげです。私の研究は私1人では無理だったでしょう」 「はははっ、ご謙遜を」 和やかな宴は深夜近くまで続き、星空がきらめく頃お開きとなった。 東教授は1人バルコニーへと出ると星空を優しげな目で眺めた。 「綺麗だ。日本もまだまだ綺麗でありたいものだ」 「でしたら我々に協力してもらえませんか?」 「っ!?」 1人で眺めているのだと思っていたのだ、突然の人の声に驚き辺りを見回す。 するとスッと柱の影から内閣官僚の1人である鮫島達也が現れた。 東教授は警戒するように暗がりの中に立つ鮫島を睨む。 鮫島は東教授のそんな姿が滑稽に思えたのか腹を抱えて笑い出した。 「あははははっ。東教授ってもっと穏やかで柔和な性格の方だと思っていましたが、実は攻撃的なんですね。それでもまぁ、素晴らしい賞を受賞したわけですから敬意を込めて拍手を送りたいと思います」 そう言いながら鮫島は拍手をし、東教授の警戒心をさらに掻き立てた。 「私に何の用だ。老いぼれジジイを馬鹿にしに来ただけではなかろう?」 「さすが東教授、賢くて話が早い。そうですよ、東教授にお願いがあって内閣代表として参りました」 鮫島は先程までの態度を一変として変え深々と頭を下げた。 鮫島達也という奴はキャリア官僚であり完璧主義者人間で、常に人を見下している。 相手がどんなに年上でもそれは変わらず、東教授にでさえそうであったのだ。 だが彼には唯一弱点があり、それはトップの命令には逆らえないということ。 故に鮫島は総理大臣の座を狙っているのだと内閣内では怖がられている。 それだけこの男はやり手で内閣でも重要視されているのだ。
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