第1章

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「敵の親玉が、こうして顔を出している時点で邪道だ」 伊織がチッと舌打ち混じりに言った。 「見解の相違だな。私は君と同じで戦わないんだ。こうして強くなった山都くんに会いに来てもいいだろ? ね? 山都くんもそう思うよね」 「さぁな」 と山都は答えた。敵だとわかっていても、襲ってこない相手を攻撃することはできない。 「フフッ。連れないなぁ。まぁ、いいさ。私はケーキを食べさせてもらうよ。そのついでに楽しく談笑しようじゃないか」 可憐はフフッと笑って、時には休息は必要だからねと言った頃、 蛇目達は鏡の世界を通って、蛇目の部屋に来ていた。普通に玄関から入ろうにも、鍵がかかっていて、外から入れなかったのだ。 「何なのよ。これ、ぼ、ボタンがいっぱい。よくこんなの使えるわね」 鏡子は、蛇目の部屋に置かれていた、ノートパソコンを覗き込みながら言った。固定電話一つ使うのにも苦労する彼女には、ノートパソコンなんて触るのも億劫な物だ。 「調べものなら、これが一番ですよね。蛇目ちゃん。何かわかりました?」 「わかったよ。とってもショッキングな事実がねぇ」 蛇目はノートパソコンを操作して、数年前の死亡事故を記事を見た。簡単に説明すると、被害者は小学生、影沼帽子。彼は夕暮れ時の道を歩いて、どこかに出かけている最中に横断歩道を信号無視してきたトラックに跳ねられ死亡。轢き逃げだった。 身元確認の決め手になったのは、彼が父親から誕生日に送られた、黒色のニット帽だった。 「亡くなったってことは、この影沼って子は、ずっと待ってるってこと? アンタとの約束を守るために?」 ありえない話じゃない。境鏡子だって、陰火を憎み続けて、数十年、鏡に潜み続けてきた。人の気持ちは、色濃く残るものなのだ。 「子供って約束を守るものですからね。平気で破る子は嫌われるものです」 日本の教育の根底には『皆が同じく平等に』という方針が根強い。同じ制服を着て、性格や個性を均一にしてしまう。それは日本人にとっての互いの結びつきの強さという美徳であり、裏切りや約束の反故を許さないという悪徳もある。 指切り拳万、針を千本、呑ませるぞという指切り、特有の掛け声は約束を破る者は絶対に許さないという訓辞なのだ。 約束を破る者は、拳を百万回、叩き込み、針を千本、飲ませるという過剰な言い回しも約束の大切さを教えるためのものだ。それは真朱や鏡子、蛇目
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