第1章

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痛いほど、わかる。他人と違うこと、自分達が異質な力を持っていることは他人に知られてはいけない秘密なのだ。 「私、ずっと忘れた。んん、そうじゃない。影沼帽子が事故死したことも知らなかった」 幼い身体になって、遠い昔の記憶が蘇ってくる。影沼帽子と出会ったのは、山都大聖と知り合ってからしばらくたってからのことだった。その日、山都大聖に約束を見事にすっぽかされて、待ちぼうけをくらい、ふてくされていたときのことだった。 『君、暇してるの? よかったらボクと遊ばない?』 黒色のニット帽をかぶったその子はクスリと微笑みを浮かべながら言った。最初は疑わしいと思った。黒色のニットがなんだかとても怪しく思えたからだ。でも、山都に約束を破られたことで不機嫌になっていた彼女は、影沼と遊んだ それからも影沼と遊ぶことはあった。別件で山都がいなかったり、予定が合わなかったりすると影沼はひょっこり現れて、遊ぼうと言ってきた。 「子供なんて、そんなものよ。毎日、いろんなことが起こってすぐに忘れちゃうんだから、でも、どうするの? 今朝、出会った、ニット帽が同一人物であれ、なんであれ、もう一度、会うべきでしょ? それとも、山都大聖が帰ってくるまで待って、あいつの嗅覚で探し出して事件を解決してもらう?」 「いいやぁ。私と彼女の問題だからねぇ。私が解決するよ」  「え? 彼女って、影沼さんは女の子なんですか?」 「私も、自分のことボクって言ってたからてっきり男の子だと思ってた」 キョトンとする二人に、蛇目は苦笑いした。 「まぁね。影沼帽子って名前やいつもニット帽を被ってるから男の子に間違われることが多かったみたいだよぉ。理由はいくら聞いても教えてくれなかったけど」 きっと、今朝、出会ったのは影沼帽子だ。蛇目はどこかで確信していた。ひょっこり現れて、遊びに誘うところも、女の子なのに自分のことを『ボク』と呼ぶところも、黒色のニット帽を被っていることも蛇目は知っていた。 「約束したからねぇ。私が解決すべきでしょ」 知っていたから、影沼からの遊びの誘いをあっさりと受け入れた。 「会いに行こう。数年ぶりの約束を叶えるためにね」 夕暮れ時の公園で影沼帽子は、ブランコに腰掛けながら誰かを待っていた。それが誰なのか、もう思い出せない。ただ、誰かと約束していたことだけは覚えている。 (なんとなく、遊ぶ約束だった
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