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鬼という表現が似合いそうだな、自転車の追跡者に、影沼は恐怖のあまり山都にしがみついていた。もしも彼に見捨てられたら殺されてしまいそうだった。
「安心しろ。見捨てたりしない。安全なところまで送る」
街中を突っ走りながら、影沼を抱えた、山都が優しくポンポンと頭を撫でた。恋敵なのにと思うのに、ほんの少しだけ嬉しい自分がいた。そうだ、山都大聖は今も昔も変わらない。助けてくれるのだ。誰だって、困ってる人を見かけたら手を差し伸べるお人好し。
「…………だから、蛇目ちゃんも好きになるだよな。ボクとは違って」
こちらは物陰からこっそりと隙をうかがいながら好きな人に取り入ろうとする、卑怯者だ。まさしく、光と影。
(勝てるわけない)
蛇目日傘が好きだ。とても、女の子だけれど、影沼帽子は彼女のことが好きで、けれど、心のどこかで諦めている。振られて、気持ちは複雑でモヤモヤが消えない。
(男の子だったらよかったのに)
封じ込めていた記憶がどんどん、溢れていく。中性的な顔立ち、ニット帽を被れば男の子に見られる。そうやって偽り続けてきた。いつか、大人になったら、胸や身長、体格や容姿はどんどん、女の子になっていくのだろう。それが嫌だった。男の子でいたかった。影踏み、缶蹴りや、鬼ごっこや、色鬼。サッカーに野球、ドロケイが大好きな子供のままでいたかった。
なのに、心は大人になっていく。同姓の女の子を好きになり、心に開いた歪な傷がギシギシと痛む。何もかも忘れていたい。何も知らなかったあの頃に戻りたい。きっと自分に宿る、この力はそんな気持ちの象徴なのかもしれない。
(今、ここで山都大聖を幼かった頃よりもさらに前、生まれる前に引き戻すことができれば)
山都大聖を、蛇目日傘が好きな山都大聖を殺すことができる。いくら彼が強くても、そこまで幼児化してしまえば、殺すことができる。でも、
(でも、蛇目ちゃんが悲しむ顔だけは見たくない)
勝てないなぁと山都に抱きかかえられられ影沼な呟いた頃、
蛇目日傘は公園で立ち尽くしていた。生まれて初めて告白された、そして振った。その衝撃は影沼が走り去った後もジクジクと尾を引いていた。辛いし、彼女を追いかけなくてはと思うのに、足が動かない。なんて言葉をかけていいのかわからない。それを見守る、真朱や鏡子も同じだった。こういうとき自分達は子供なのだと痛感する。大人だったらきっと慰めの言葉くらい
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