第1章

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『約束だよ』 と夕暮れ時の公園で黒色のニット帽を被った子が言った。顔は逆光で隠れていて、体格も子供のせいで性別は判断がつかない。 『うん。約束。明日になったら、また、遊ぼうね』 こちらは服装から女の子とわかった。大きな麦わら帽子に赤色のスカートに長袖を着た少女は、ニット帽の子に小指を向けた。 『指切りげんまんしよう』 『うん。指切りげんまん、うそついたら針、千本のーます。指切った。明日、遊ぼうね』 『約束だよ。蛇目ちゃん』 とそこで視界が暗転し、蛇目日傘(ジャモク、ヒガサ)は目を覚ました。ンッと目ともをこすりながら身体を起こすと、ゴロリと抱き枕がベッドから転げ落ちた。 「あ、いけない」 蛇目は、山都大聖の写真がプリントされた、抱き枕を抱え上げてギューッと抱きしめた。スリスリとひとしきり頬ずりして、山都抱き枕にキスして、そっとベッドに置いて立ち上がり、んーっと背伸びした。 綺麗な身体。適度に引き締まり、スラリと長い。人目のない部屋で蛇目は下着姿でいるのが、彼女のスタイルだった。茶髪に染めた髪や整った顔立ちから、男性にモテそうだが、彼女が自身の身体を誰かに見せることはないし、仮に見たとしても拒否するだろう。蛇目の身体を巻きつくように、蛇の鱗が浮き上がっているからだ。 「…………」 蛇目は一分ほど、その身体を見つめて、フゥと一息ついた。彼女は、この行為を毎日、朝と夜、続けている。自身の身体に 見とれているわけじゃない。むしろ、逆だ。今まで自分がやってきたことを忘れないための行為。この身体には人を殺せる力がある。 その力で数多くの人達を傷つけてきたことを忘れないように、蛇目はゆっくりと自分の身体を眺めていく。 「もうすぐ、夏だよなぁ」 蛇目は、鏡から外を見た。六月の終わり、長く続いた梅雨が終わり、眩しい夏がやってくる。 「私も半袖や水着、着てみたいけど、この身体だからねぇ。ん? いいや。山都くんをお風呂に連れ込んじゃえば、水着になっても平気かなぁ」 蛇目は大きな胸を見て、ニィと笑う。山都大聖、昔なじみの中卒金髪少年の顔を思い浮かべて、 「ロリ連中にはない、大人の魅力という奴を見せつけたいねぇ」 「ほほう? そんな巨大な物をたれ下げて山都を誘惑しようとしてるのね。最低ね」 「へ?」 蛇目、以外に居ないはずの部屋に声が響き。 「こっちよ。こっち。蛇目さん」 鏡から声が聞こえた。
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