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迷子と聞くと、ニット帽を被った子供はゆっくりと首を横に振った。ポケットに、手を入れたまま言った。
「お姉さん達さ。さっき缶蹴りしてたよね。楽しそうだと思ったんだ。ボクも混ぜてよ」
「それは歓迎だけど、この子達、疲れてるみたいだからもうちょっとだけ待っててくれるかなぁ?」
「いいや、ボクが遊びたいのは、お姉さんだけでいいんだ」
ニット帽の子供は、蛇目をまっすぐ指差した。
「お姉さん。影踏みしようよ。知ってるよね?」
「影踏みね。いいよぉ」
影踏み、それは影を踏み合う遊びだ。
「約束だよ。お姉さん。ボクが勝ったらずっと遊んでもらうからね」
「ん? いいよぉ。約束だ」
スタートの合図はなかった。ザリッと地面を蹴った。蛇目とニット帽は接近した。子供相手だからと手を抜いたりしない。
ただが影踏み、されど影踏み。影を踏むだけで相手にぶつかったり、触れたりしないように距離をとりつつ、影を狙う。太陽の位置や、雲の動きで影の位置も変わってしまう。
「いいね。お姉さん」
ニット帽の子供がニィと笑った。蛇目の影から人の手が溢れ出し、彼女の足首にガッチリと掴んだ。
「…………え?」
「影、踏んだ」
影から出てきた、手首は一瞬のうちに消えてニット帽の子供が蛇目の影を踏んだ。
「ボクの勝ちだね。お姉さん」
「そうだねぇ。君の勝ちだ」
「うん。お姉さんの勝ちだよ。また、遊ぼうね。お姉さん。約束だよ」
とニット帽がクルリと踵を返して、公園を出て行くと、同時だった。蛇目の視線がいきなり低くなった。
「あれぇ? なに、これ」
ブカブカの長袖シャツに、縮んだ身体、ペッタンコな胸に、茶髪だった髪が黒髪に変わるというか、戻っている。
「蛇、蛇目さん。身体が、その」
駆け寄ってきた、真朱が言葉を濁す。
「貴女、子供になってるわよ」
と真朱の言葉を引き継ぐように、鏡子が言った。あれぇ? と蛇目が自分の身体をぺたぺたと触り、あたりを見渡す、視線が以前に比べてとても低い。
「あれぇ?」
「ペッタンコですね」
「そうね。ペッタンコだわ。私も大きくなったらあんなになるといいな」
と陰火と揚羽が別の意味で関心していた。彼女達の視線は蛇目の小さく萎んだ胸に向いている。
「でも、山都お兄ちゃんは小さいほうが好きかも」
「山都大聖は関係ありませんよ」
「関係ある。私もあんな身体になりたい」
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