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(こんな姿、山都くんにだけは見られたくないからねぇ)
内心で呟いた。
「そ、そうですけど、手がかりは少ないですよ。あのニット帽の子供くらいしか」
「そうでもないみたいよ。ほら」
部屋の隅っこに置かれた、新聞を鏡子が広げて、小さな記事を指さした。なになにと皆が覗き込み、揚羽が言った。
「えっと、謎の現象。高校生が子供に? 謎のニット帽の子供? なにこれ」
「山都が熱心に読んでたから、気になってたのよ。どうよ。これ、蛇目と一緒じゃない?」
確かにとみんなが頷く中で、真朱が言う。
「じゃあ、山都様は、この事件を調べるためにというわけですか。仕事だとは聞いてましたけど」
「あの男のことですから、きな臭さを嗅ぎ取ったんじゃないですか? 獣の嗅覚というやつで」
陰火が真朱に同意した。フムと頷き、
「わたくし達だけで解決するにしても、やるべきことはニット帽の子供を探すことじゃないですね」
「ニット帽の子供を探すにしても、手がかりが少ないわよ。山都みたいに嗅覚が鋭いわけじゃないしね」
山都大聖がいないとうだけで、こうも行き詰まるものなのかと誰もが痛感する中で蛇目は一人、今朝、見た夢を思い出していた。夕暮れ時に出会った、あの子も黒色のニット帽を被っていた。名前を、
「影沼、影沼帽子(カゲヌマ、ボウシ)」
と言った。遠い記憶の奥底に眠っていた思い出が蘇る。
「カゲヌマ、ボウシ? 誰それ?」
「たぶん、ニット帽の子供の名前だと思う」
思い出していく。幼くなった子供の身体になって当時の記憶が蘇っていく。
「約束したんだ。明日になったら遊ぼうって」
名前だけは思い出したけど、それ以外はもやがかかったようになって見えない。
「じゃあ、振り分けましょうか。私と蛇目ちゃんに鏡子さんは影沼帽子について、調べて、陰火さんと揚羽さんはニット帽の子供を探してください」
真朱の一声で、チーム分けされてみんなが捜査を開始し始めた頃、
「ほらほら、山都。このパフェ、とても美味しいよ。君も食べてみるがいい。ほら、あーん」
山都と伊織はファミレスでパフェを食べていた。
「…………」
「あーん。食べてくれないのかい?」
「あー」
と山都はキツく閉じていた口を開けた。
「なーんてね」
とスプーンに掬っていた、クリームを食べた。
「アハハハハ。どうしたんだい。食べたかったのかな?」
「食べたくねぇよ」
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