第1章

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「ロシアでは、漁師も出くるてばい」 説得する高木の言葉に、友蔵も心が揺れた。お店(たな)勤めなら、やっていく自信がないからすぐ断っただろう。だが、漁師だったら、ロシアでも続けられそうな気がする。「ロシアの者は漁の仕方ば知らんけんいつ海に出ても大漁ばい」そういう噂話は友蔵も知っていた。また、戦争でどうなるかわからない日本に、このままいてもいいものなのか、心配でもあった。何よりこのまま天草に残れば、漁師と小作そして娘二人の稼ぎでは、到底食べていけない。
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