プロローグ

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ずいぶん長いこと眠っていた様な気がする。ぼやけてはっきりしないままに、辺りを見回せば、記憶にはない部屋に彼はいた。 自分はどうやらベッドで寝ていたらしい、すっきりとした清潔な部屋だ。所々から女性が住んでいるのだろうと思える部分がある。 ここはどこだろうか。 思い出そうとするとズキリと頭が痛んだ。誤魔化すように立ち上がると部屋の中央に絵が置かれている。小さな男女が仲良く手をつないでいるそれには見覚えがあった。 それが自身の描いたものだと思い出すのに少なくない時間がを要した。随分、昔に描いたものだったからだ。 秋の木漏れ日を浴びる様な懐かしい気分に浸りながら稚拙に描かれた、絵というよりかは落書きをまじまじと見た。下手だ、だけど不思議な何かを感じる気がする。 感慨に耽る、同時に絵の横に書き置きがあることに気づいた。 「ここに来てください 」 書き置きの側には携帯電話が置かれている。電源を入れてみれば、すでにナビゲーションアプリが起動されていて、小さな液晶には地図が描かれ目的地までの行き方が書いてあった。 食事に着替え、飲み物まで用意されており自分は子供か何かかと反抗心が首をもたげた。だけど反抗する気にもなれず大人しく絵の中の言付けに従うことにする。 もう春先だと言うのに吹き付ける風は冷たい。書き置きの主が用意した服はまだ冬向けのもので必要かと思ったが、着てきて正しかったようだ。 ナビを注視しながら歩くというのがマナー違反だからか、ちらちら感じる視線を気にしなかった。目的地はそう遠くもなかったようで電車を使って隣駅に行けばすぐについた。 そこは何かの施設のようだ。研究機関に特有の白さはあまり好きではない。清潔感を謳った所で、研究なんてものは生物の死体から成り立つものだ。 白という色はきっと赤や黒よりおぞましい。しかし、メッセージを無視できずに彼はそこに向かった。
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