1.出会い

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1.出会い

気づけばユマはそこにいた。白い、真っ白な部屋だ。天井も壁も全てが白で塗りつぶされている。 もうどれくらいいるのか。彼は母親と2人で暮らしていたはずだが、引き離されて、それ以来ずっとここにいる。 これはゆーかいと言うものではないだろうかと幼い頭は考えた。だけど、どうしようもない。 連れて来られたばかりの頃は泣き叫び暴れたが、まだ年が2桁にも届かない少年の抵抗は無駄に体力を削り安眠を届けるくらいの効果しかなかった。それからは諦めて1人でずっと母親を待っている。 届けられた食事を拙い箸さばきでどうにか口に運ぶも顔をしかめた。ここの食事はまずい、と言うかひどく薄い。 今日は肉じゃがだ。ホクホクとしたじゃがいもが空腹を誘うが口に含んで見ればあまりの見た目との落差に顔をしかめてしまう。 ほとんど味がない。まるで紙粘土を噛んでる様な感触だけの料理をユマはどうにか嚥下した。 まずい、でも食べなければ死んでしまうかも知れない。そんな使命感に似た絶望が彼に無味の料理を口に運ばせる。 食事を終えると急にやることがなくなった。この部屋には色々な玩具を置いているが彼はあまりそう言うものに興味を持たず、絵を描いた。白い紙にたくさんの色を塗りたくる行為が一番時間を忘れさせてくれる。 気がついた時には眠っていて、起きたらまた描くと言う行動をどれくらい続けていただろう。ある日のことだ。 ユマはいつもどおりに目を覚まして、すぐに絵の続きを描こうとして、気づいた。絵に覚えのない文字が書かれているのだ。 「じょうずだね」 丸くて可愛らしい、女の子みたいな字だと思った。長く1人でいたからだろうか。 寂しさが急に押し寄せる。今まで押し殺した感情を溢れさせるように、彼はその文字の下に書いた。 「きみは、だれ?」 返事を期待しない訳がなかった。そしてユマは眠気が来るまでの暇を潰すために新たな絵を描いていく。 ここにいる大人達は、彼が絵でしか遊ばないと言うことを理解してか新たに上等な紙やたくさんの種類の色鉛筆、クレパスなどを置いてくれている。ユマは感謝こそしなかったが、それらを使い絵を描いた。
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