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次に意識がはっきりした時、ユマは飛び起きてすぐ絵を見た。しかし、そこには眠る前以上の変化がない。
普段なら完成した絵に達成感や満足感を得るのだが、今回ばかりは無力感しかわかなかった。
やはり自分は一人なのかと思うと途端に寂しさが心をノックする。吹き荒ぶ風が孤独を思い知らせる様に嘲笑った気がした。
胸にぽっかりと穴があいた様な無気力が襲い、ユマは絵をぐしゃぐしゃにして放り捨てようとした。そこで気づいたのだ。
自分が広げた絵以外の紙が落ちていた。そこには見覚えのある可愛らしい文字が書かれている。
「お話するならこっちにしようよ。上手な絵がもったいないから。私はマユ、あなたはだれ?」
その日から彼の世界は変わっていく。
「僕はユマ、よろしくね」
二人の文通とも言えない会話は少しずつ続いた。
「ユマは絵が好きなの?」
「うん、楽しいよ。マユはかかない?」
「わたしは見るだけでいいよ、ユマと違って下手だもの」
「かいてたら上手になるよ」
「いいよ、別に。わたしはユマの絵が好きなの」
たわいのない話ばかりだ。だけど、彼らにはとても貴重で得がたい宝物だった。
ユマは今までの会話を書いた紙を抱きしめて、薄れ行く意識を手放した。
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