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「あのね、子供たちの姿が見えない」
子供とは、市場で出店していた『そうた』と『くう』のことだ。
秋以降、折に触れ彼らと接触していた幸宏からその後の消息は聞かされていた。
子供たちに役立つことは何だろう、と何度も相談を受けた。初冬の頃から市場は場を変え、やがて姿を消した。同時に売り子たちの行方もわからなくなったという。
「小さい子供はあのふたりだけだった。満足に学校にも行けていない。食べるに困ってなかったようだけど、冬だろう。この寒空、どこにいるんだろう。こんなことなら、説き伏せても掠ってでもいいから手元に引き取ればよかった」
「本気なのね」
「思いつきでこんなこと言わない。ずっとそのつもりだった。けど、木幡君に下らないセンチメンタルな感情、感傷だ、犬猫を拾うように子供を飼うのか、と言われると……反論できなかったんだ」
「武君はどうしたい?」
「さっき言ったとおり。引き取りたい」
「知り合いのお兄さんとして?」
「さっちゃん、冗談がきつい」
「そうね、言い方が悪かったわ。ごめんなさい。じゃ、私はすぐにふたりの子持ちになるのね?」
「……嫌かい?」
「私より、子供たちがどう思うか、だわ。ふうちゃんはあなたをお父さんよりは、恋人か旦那さんになってほしいと願ってるようだもの」
「まさかあ、あんな小さい子がかい?」と彼は笑う。
ホント、鈍い。女心に疎い彼らしい。
ふうが憧れを持って見つめる少女の瞳のあどけなさの中に滲む淡い恋心に気付かないんだもの。
私、あの子に恨まれるわ。
手短な話題はふたりにかかるとなかなか止まず、電話は切られない。しまいには父に止められ、諫められることも度々だった。
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