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◇ ◇ ◇
翌朝。
朝刊の三面記事を開いた幸宏は「何だこれは!」と大声を上げた。
朝食の仕度を、初めてなのに何年も延々と続けてきたように仕度している幸子の元にあたふたと駆け込み、見せた先には幸宏と幸子が結婚したと告知する小さな広告があった。
枠線に囲まれた、とても小さいものではあったが、大新聞にわざわざ載せられたことに意味がある。
小さなコミュニティを作る地方ならいざ知らず、東京では自分達を知る人はほとんどいないに等しいのに、幸子たちが所帯を持ったことをアカの他人に知らせまくったのだ。
一般市民と何ら変わりがない自分達の広告など、何の価値もない。けど、新聞に載ってしまうと大事にならざるを得ない。
「やられた」幸宏は額を押さえた。
「伯父貴達がやけにあっさり引き下がるから気持ち悪いと思ってたんだ」
「ど、どういうこと?」
「本家の結婚祝い代わりなんだろうさ。嫌な予感がするけど、君の父上も同じことしてる可能性はないかな」
「まさか、父が?」
幸子は一笑に付した。
が、幸宏の予感の方が当たっていた。
招いた両家の招待客をそれぞれ駅で見送った際、それぞれの家長はわざわざ新聞を折り返して件の記事が見えるように持っていた。
幸宏の伯父と幸子の父それぞれ手に持つ新聞の、広告文は同じでも掲載された新聞は違っていた。
客が帰って日を置かず、両家より小包が届いた。差出人は違っても中身は地元紙の新聞だった。こちらにも同じような広告が載っていた。
新聞広告はどれもこれも安くはないはずだ。
「どうしましょう、これ……」
居並ぶ紙の束に、幸宏は彼女の肩に手を置いて言った、「これで君の名誉は守られたね」と。
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