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亨がいくら頬を撫でて首筋を撫でて懸命に宥めてくれても、一度溢れた感情は、簡単には収まりそうにない。
涙で視界がぼやけて、亨がどんな顔をしているのかも全く見えなくなった。
「……春妃」
ただ、声が酷く弱々しい。
困らせているのだとわかっているけど、もう止まらない。
素直じゃなくてごめんなさい。
あの時、折角言ってくれたのに素直に返事しなくてごめんなさい。
私だって本当は、ずっと一緒に居られる約束をしたいと思ってた。
ただそれはすごく特別なものだと思っていて。
亨が私のいる日常を心から望んでくれたからこその零れた呟きだったのだということに、気付くのが遅れた。
「とーる」
すぐ間近に感じる息遣いに、手を伸ばして首筋にすがりつく。
しゃくりあげるのを懸命に堪え乍ら、溢れてとまらない感情を言葉にする。
「ずっと一緒にいたい。亨と、結婚したい」
勢いじゃない。
準備していたわけでもない。
だけど、溢れた言葉は嘘じゃない。
あの日の亨の気持ちが、言葉にした途端によくわかった気がした。
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