【序章】ふたりぼっち

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二人が何よりも怖じているのは、兄さまのその行動力の凄さだ。      高校を卒業する年になった兄さまは大学受験を控えた。 兄さまは県立某高校で首席、誰もが国立大学を狙うんだろうって思うほど学業はトップクラスだった。 それだけ兄さまがうんと勉強していた。 おれは陰で見ているから知っている。 でも大学なんて行かせてもらえないだろうな……。 母親はおれ達を虐げているし、父親は“別”の家族と和気藹々暮らしているし(でもまだ母親と離婚してないという不思議)。 働けって言われるのがオチ(そして母親に金を取られるのがオチ)だと思ってたんだけど、兄さまは持ち前の行動力で二人を脅しに掛かった。 行動力と言っても、ただの暴力じゃない。 兄さまは母親と繋がりを持つ恋人をシメたり(母は珍しくも今の恋人にゾッコンだ)、父親が愛しているであろう“別”の家族を襲うって脅しに掛かったり。 今まで虐げられてきたことを警察に話すと言ったり。 親の目の前で壁に穴をあけてみせたり、どこからか族っぽいのを連れて来たり。 “別”の家族に真実を語るって笑顔を見せたり。 二人の貯蓄であろう通帳を盗んで全部兄さまの通帳に移し替えたり。 行動と力、そして頭脳をフルに発揮して見せた。 多分、二人とも予想してなかった行動だと思う。 それまでおれと兄さまは、二人に対して従順な“玩具”として日々を過ごしてきたものだから……こんな行動に出るなんて驚きも驚き。 とにもかくにも、二人にとっては不都合極まりない行動を兄さまは起こしに掛かった。 そして今。 兄さまは今までの過去のことを突きつけて、おれ達を自由にするための条件を出していた。 二人をリビングに呼び出し、三つの条件を出している。 おれ達の学費・生活負担と家を出る許可。 自由を得るためならどんなことでも行動に起こす。 兄さまはそんな顔をしていた。 「分かった。お前達の条件を呑もう。その代わり、馬鹿な事は一切してくれるな。分かったな?」 父親が威厳を見せてきた。 おれ達に今更、父親ぶられても効果はない。 「ッハ」 兄さまは鼻で父親を笑う。
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