【序章】ふたりぼっち

12/16
前へ
/401ページ
次へ
「今まで俺等を散々な目に遭わせておいて、今更父親面してんじゃねえぞ? 胸糞悪い。おい、あんたはどうなんだよ」 母親に向かって問い掛ける兄さま。 おれ達にとって、父親よりも母親の方が復讐対象になる。 だって、虐げられ方が酷かったんだしさ。 おれのトラウマになってるくらいだから……それは兄さまも同じだと思う。今は強がってるけどさ。 虐げられた日々はトラウマ、おれも兄さまも一生の傷になる。そうに違いない。 母親から口答はなく、何度もおれ達の条件を呑むとばかりに首を縦に振るだけだった。 あんなに恐かった母親がこんなにも弱く見えるなんて、変な気分だとおれは思った。 兄さまは二人の承諾を目にした後、話は終わりだって打ち切った。 「条件は守れよ。守るなら俺等も何もしねぇから。 けどてめぇ等、もし何か行動に起こしてみやがれ。俺も黙っちゃねぇ。いいな? 那智、部屋に戻るぞ」 「あ、待って下さい。兄さま」 椅子から下りる兄さまは、さっさとリビングから出て行く。 おれも慌ててリビングから出て行った。 両親と残されるなんて真っ平ごめんだ。 けど兄さま、優しいから廊下でちゃんとおれを待ってくれていた。 勢い余ってぶつかるおれを、兄さまは目で笑う。 「バーカ。置いて行きやしねぇよ。ほら、手」 背の高い兄さまは、おれに大きな手を差し伸べてきてくれる。 おれは迷わずその手を握った。 すぐそこなのに、おれ達はいつも決まって手を繋ぐ。 どうして手を繋ぐかって聞かれたら困るけど、物心付いた時からこれが癖になっていたから、兄さまは何があるにしてもおれと手を繋いでくれる。 そんな兄さまが、おれは大好きだった。
/401ページ

最初のコメントを投稿しよう!

467人が本棚に入れています
本棚に追加