【序章】ふたりぼっち

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それから翌年の三月。   兄さまは第一志望していた国立K大学の合格通知を貰った。 当然の如く合格通知をおれに見せてくる兄さまに、おれはオメデトウの言葉しか贈れなかったけど、十分だって兄さまに一笑された。 そして兄さまが高校を卒業する日、おれは兄さまと住み慣れた家を出て行った。 誰も見送りはしてくれなかったけど、気持ちは晴れ晴れとしていた。 毎日が恐怖だったあの家から、ようやく解放される。 そう思うだけで心の曇天模様が嘘のように晴れる。 久々におれは笑顔を作る事が出来た。 始終笑みを浮かべるおれを見て、兄さまも笑ってくれた。 新しい家は前の家に比べて随分狭かった。 前の家は一軒家だったんだけど、これからアパート暮らしで、2DKでベランダなし、みすぼらしい部屋しか選べなかったって兄さまは言ってた。 ちょっと兄さまは不服そうだったけど、おれはあの家以外だったら何でも良かった。 もう毎日、夜に怯える必要もない。 九時以降、自室に篭ることもないし、冷たい食事を食べる必要もない。 母親の罵声も白眼視も暴力もない。 父親の冷めた家族愛に悩む必要もない。 そう思うだけで涙が溢れた。 これから住む新しい部屋を見回して、はしゃいでたおれだけど、色んな気持ちが爆ぜて、とうとうその場にしゃがんで泣いてしまった。 泣き声が煩いからって、よく母親に言われてたから声を殺して泣くことが多かったけど、もう声を殺して泣くこともしなくていい。 誰かの顔色を窺って感情を殺すこともしなくていい。 涙はますます流れる一方だった。
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