【序章】ふたりぼっち

16/16
前へ
/401ページ
次へ
「那智」 泣き崩れるおれを兄さまが抱き締めてくれたから、優しさに甘んじておれは散々泣き続けた。   恐かったって繰り返し兄さまに吐露した。 いつか殺されるんじゃないかって、思うくらい毎日が恐かった。 兄さまは何度も相槌を打って、おれをあやしてくれる。 「ほら、あんま泣くと目が溶けちまうぞ。大丈夫、てめぇを傷付ける奴、もういねぇから。兄さまがこれからも守ってやるから。落ち着け」 「んっ……うん……ん……っ」 おれは嗚咽しか出せなかった。 本当は嬉しいって言いたかったのに。 この春から、おれは中学に進学する。兄さまは大学に進学する。 新しい生活が始まる。 きっとこれからは兄さまと楽しい日々が過ごせる。 それを夢見ながらおれは溜まりに溜まったの涙を、感情を、我慢を、その日、延々と流した――。 大丈夫。 おれには兄さまがいる。 (俺には弟がいる) これからどんな困難が待っていても、 (これからどんな困難が待っていようとも) 兄さまと一緒なら乗り越えられる。 (弟と一緒なら乗り越えられる) ずっとずっとずーっと兄さまと (ずっとずっとずっと弟と) 一緒にいられる。 兄(弟)と幸せになれれば、他に何にもいらない。 ⇒一章
/401ページ

最初のコメントを投稿しよう!

467人が本棚に入れています
本棚に追加