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「那智」
泣き崩れるおれを兄さまが抱き締めてくれたから、優しさに甘んじておれは散々泣き続けた。
恐かったって繰り返し兄さまに吐露した。
いつか殺されるんじゃないかって、思うくらい毎日が恐かった。
兄さまは何度も相槌を打って、おれをあやしてくれる。
「ほら、あんま泣くと目が溶けちまうぞ。大丈夫、てめぇを傷付ける奴、もういねぇから。兄さまがこれからも守ってやるから。落ち着け」
「んっ……うん……ん……っ」
おれは嗚咽しか出せなかった。
本当は嬉しいって言いたかったのに。
この春から、おれは中学に進学する。兄さまは大学に進学する。
新しい生活が始まる。
きっとこれからは兄さまと楽しい日々が過ごせる。
それを夢見ながらおれは溜まりに溜まったの涙を、感情を、我慢を、その日、延々と流した――。
大丈夫。
おれには兄さまがいる。
(俺には弟がいる)
これからどんな困難が待っていても、
(これからどんな困難が待っていようとも)
兄さまと一緒なら乗り越えられる。
(弟と一緒なら乗り越えられる)
ずっとずっとずーっと兄さまと
(ずっとずっとずっと弟と)
一緒にいられる。
兄(弟)と幸せになれれば、他に何にもいらない。
⇒一章
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