【序章】ふたりぼっち

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「九時までにお部屋に戻らないと、またお母さんに怒られちゃう? 叩かれちゃう?」 鍋の中身を掻き回していた俺の手が止まる。 おずおずと那智が俺を見上げてきた。 間を置いて、俺はお玉を手放すと優しく弟の頭を撫でる。 「大丈夫。兄さまが守ってやるから」 「でも……兄さまが叩かれちゃう。昨日も兄さま、叩かれた。お母さん恐い……お父さん、ちっとも帰って来ないし。兄さま叩かれるのヤダっ、ごめんなさい」 昨日叩かれたのは自分のせいだと涙ぐむ弟。 俺等の家の決まりは、九時以降自室から出ないことだ。 約束破って見つかりでもしたら、さあ大変。 母親って言っていいのか分からないけど、まあ、母親らしきアイツに張り手食らっちまう。 だけど昨日のは仕方が無かった。 どうしても弟がトイレに行きたくなって、九時以降になっているにも関わらず手洗いに行った。それだけなんだから。 おかげで母親に見つかって、容赦なく張り手かましてきやがった。 無論、弟に向けてだったけど、俺が庇っちまったもんだから母親が逆上しちまった。 何回もぶたれた。 弟が狂ったようにごめんなさいって母親に謝っていたのを、よくよーく憶えてる。 これって一種の虐待……だよな。 結構なまでに俺も那智も体に痣がある。 全部母親のせいだ。 んでもって母親の連れて来る恋人のせいだ。 だけど世間は俺等を助けてくれない。 誰もが虐待は駄目だって口にするけど、実際に救済の手を差し伸べてくれるかって言ったら、そう簡単に手なんて伸べてくれないもんだ。 綺麗事バッカだ世の中。 言ってる事とやってる事がまるで違う。 大人なんて、そんなもんだよな。
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