06. 撒かれる感情

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ギッと治樹を睨みながら、朱美はさっさと寝巻きを羽織る。 何が悲しくて不法侵入者に下着(上半分)を見られた挙句、コンプレックスを指摘されなければいけないのか。 Aカップだって女として今日を立派に生きているというのに! 朱美はボタンを留めながらフツフツと煮える思いを噛み締めていた。 羞恥よりも先に怒気が彼女を襲っていた。 と、怒りがやや冷めた朱美は冷静になろうと努め、改めて下川兄弟に視線を投げる。 兄の方は髪の色を元の黒髪に戻していた。 金髪も似合っていたが、彼には黒が一番似合うようだ。 金より黒の方がしっくりとくる。 しかし着眼するところはそこではなく、何故下川兄弟が部屋にいるのかということ。 病院から逃走したと聞いたが……。 「あんた達、なんで部屋にいるわけ?」 「てめぇさ。仮にも一人暮らし、しかも女の身分だろ。セキュリティの整ってないアパートの一階に住むなんざ、男に襲われて下さいと言っているもんだ。 挙句の果てにそこの窓の鍵、開けっ放し。難なく入ることが出来た」 何故にセキュリティやら、自分の不注意やらのお小言を頂かないといけないのか。 問題点はそこではないのだ。 再三質問を投げ掛ける。 不法侵入までして、自分の部屋に何故、入って来たのだと。どうして此処にいるのだと。しかも兄弟揃って。 朱美の問い掛けに、 「別れの挨拶をな」 治樹は素っ気無く返してくる。 真ん丸に目を見開いたのは朱美。 弟一筋の弟馬鹿が何をほざいた? 別れの挨拶? しかも自分に? 明日は雨か、雪か、霰か。
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