06. 撒かれる感情

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「てめぇの親父から生活費と学費を免除してもらっていた。ま、あいつがそこまで追い詰められてるなんざ知らなかったが」 「フザけないで!あんたがっ、あんたがっ、お父さんを追い詰めていたなんて! お父さんはねっ、どっかの誰かさんのせいである日を境に変わっちゃったのよ! いつもニコニコと笑っていたのに。毎晩追い詰められたように頭を抱え込んで、不眠症になって、あたしもお母さんも気が気じゃなくて。病院に連れてったほどなんだから! お父さんがあたし達に隠れて国立K大学の学費を調べたり、資料を集めていたから、容易にそいつがその大学に通うって分かった。 だからいつか、その学生を地獄に突き落とす。そう思っていた! 同じ大学に通ってっ、追い詰めている犯人を捕まえる。心に誓っていたの。それがまさか、目前の男だったなんて!」 忌々しく治樹を睨んでいると、「兄さまを傷付ける?」こっくりと那智が首を右に傾げた。 だったら……腰を浮かす弟を制し、治樹は意味深に朱美を見つめる。 「てめぇと俺等、もしかしたら立場は逆転していたかもしれねぇな」 「どういう意味よ! はぐらかさないで!」 「――てめぇは親父にとって愛されるべき子供だったってことだ。正反対に俺等は親父にとって不要だった、そんだけの話」 初めて治樹は朱美に対して純な笑顔を向けた。 子供のように無邪気な笑みと共に、 「別れの挨拶は仕舞いだ。那智、行くぞ」 警戒心を募らせている弟を呼んで腰を上げる。
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