07.あらすじに補足

5/10
前へ
/401ページ
次へ
適当に偽名を使って親父に繋げるよう頼んだ俺は、暫く待った後、出てきた会社員にまず愛想よく挨拶。声はいつもより高め。 隣で鳥井が「演技派!」笑声を漏らしていたけど、無視して相手に敬語を使う。 『どなた様でしょうか』 あからさま警戒心を抱いた声音。 俺は声を戻してスーッと目を細めながら、軽く笑みを浮かべた。 「親父、アンタの大切なものはこっちで頂いたからな」 『その声は治樹っ、大切なものっ、なん……』 「アンタも馬鹿だよな。俺等を放っておけば、何も失わずに済んだのに。残念だ」 せいぜい地獄を見るんだな。 そう言って俺は電話を切った。今頃、親父は酷く狼狽しているに違いない。 これでいい。 俺等の、親父へ復讐は完全終了だ。 携帯を運転手に投げて返す。 片手でキャッチした鳥井は、まだ笑声を漏らしていた。 「酷いねぇ、大概若旦那も鬼だろ。自分は何もしないで、溺愛している娘に真実を告げる。それによって娘は親父の素性を明かそうと動き、最後に信頼信用愛情すべてをおじゃんさせる。怖いねぇ。 ある意味、そいつにとっては地獄よりも地獄だろ」 「それが狙いだ。地獄を見させねぇで復讐とは言わねぇ。 福島は高村から真実を知るんだろうな。高村には『真実を告げたら彼女にしてやる』って言っているし……まあ迎えにも行かないが」 「鬼だ! 若旦那、めっさ鬼畜!」 「言ってろ」 鼻を鳴らす俺は弁当の唐揚げを口に放り込む。 冷たい唐揚げはあんま美味くねぇな。ほんと美味くねぇ。しょっぺぇし。 機械で作った味がする。無愛想な味がする。あったかくねぇ。
/401ページ

最初のコメントを投稿しよう!

468人が本棚に入れています
本棚に追加