468人が本棚に入れています
本棚に追加
親父はこれから、俺等に何を奪われるか怯えた生活を送るだろう。
そして俺等に何を奪われたか気付いた瞬間、絶望を味わうんじゃないかと思う。
せいぜい苦しんで欲しい。
ふたりぼっちの世界を壊そうとした奴なんだ、死ぬほど苦しんで欲しい。
ふと福島との出会いや会話、その他諸々が脳裏に過ぎる。
あいつ、ほんとうもいけ好かない女だったな。
出会いから最悪だったし、口喧嘩は絶えなかったし、お節介焼きだし、けど他人に一々優しさを持ってる女だった。
福島を利用したことに罪悪があるか、聞かれたら俺は何も答えられねぇ。
殺してやりたかった、という気持ちもないわけじゃない。
あいつは愛されていた子供、暴力を知らない子、俺達に与えられなかった愛情を貰っていた娘。
福島を殺せば親父は発狂し、別の地獄を見ただろう。
けど、それより最愛の家族から咎められ、見切られる地獄を見た方がよっぽど苦しいだろう。
福島自身への復讐にもなる。
親父を信じていた、その現実を砕かれ、あいつは相当苦しむだろう。
……だが、なんだ、このもやっとした気持ちは。
優一の時もそうだが、二人に関しちゃ罪悪を感じてるかどうか分からない。
ただ気持ち的に沈む時がある。
母親に対しての罪悪は欠片も持っちゃねえ。寧ろ清々した。
けど二人に関しちゃ、高村も含む利用した奴等に関しちゃ罪悪、どうなんだろうな。
福島朱美、俺達とは対照的に愛されていた子供、か。
些か、第二の俺はあいつに興味を抱いていたのかもしれない。
誰彼構わず、強く、優しく、気丈に振舞う女に、少しばかし興味を抱いていたのかもしれない。
俺がまともだったら好いてたかもな、ああいう気の強いいけ好かない女。
今の俺じゃぜってぇねぇけど……どうなんだろう、俺自身の真相は謎のままだ。
「若旦那が殺した青年さんの死体は、こっそりと墓建てる、で良かったのか?」
弁当を食い終わった鳥井が、ビニール袋にソレを片付けながら俺に問いかける。
俺は頷いた。
山海に捨てるよりかは、マシだろ。
捨てたら見つかる可能性もあるしな。
「誰も墓参りになんざ行かないだろうがな」
「そんなこと言って。自分が行ったりして」
「殺すぞ」
最初のコメントを投稿しよう!