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ギッと運転手を睨めば、「怖い怖い」鳥井はおどけ口調で肩を竦めてきた。
誰があいつの墓参りになんざ……くそっ、俺には那智で十分なんだ、と、手前に言い聞かせてみる。
本当に墓参りに行くかどうかは分からねぇが、鳥井は俺の近未来の行動を見透かしているようだ。
優しいことで、なんて皮肉を飛ばしてきやがる。
「さて若旦那。お仕事は終わりだが、これからどうする?」
「もう地上じゃ生きていけねぇから、地下に潜る。てめぇと同じになる。それで十分だろ? 分かり切った質問を飛ばすな」
睨む俺に、鳥井は確認してみただけと愛想笑い。
これから俺等は暫く鳥井のところで厄介になる。
世間体を騒がせてる兄弟だ、今しばらくは表に出られそうに無い。
俺は鳥井と交換条件を交わした。
暫く鳥井のところで厄介になること、とある表向きアダルト会社への入社、俺等でも住めそうな静かな環境の提供を条件に、俺は鳥井の借金の全部肩代わりする。
親からくすねた金があるからな。
鳥井の借金を肩代わりするくらいの額なら持っている。
随分俺も悪い奴だと思うが、まあ、今までの虐待に対する慰謝料だと思えば、な? 母親はもういねぇし、自由に使って良いだろうという気分になる。
裏ルートで口座も変えたし、サツの心配もねぇだろ。
鳥井は俺の出した交換条件に心底驚いていたが、「貸すだけだ。金は返せよ」釘をしっかり刺しておいた。
なんでそんなことをしてくれるのかって鳥井は訝しげな顔をしたけど、「弟は大切に」俺は兄貴らしく発言してやった。
途端にあいつは大爆笑。
らしくねぇとばかりにヒィヒィ笑ってきやがった。
ひっじょうに失礼だとは思うが、自覚はあったから何も返せなかった。
ほんと、らしくねぇよな。
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