【序章】ふたりぼっち

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俺は泣きそうな弟を抱っこして視線を合わせる。 「兄さまが守ってやる。大丈夫。てめぇは何も心配しなくていいから。だからな、那智。俺を必要としてくれ。俺を愛してくれるの、好きだっつってくれるの、てめぇだけなんだから。 父親も母親も、俺を好きだっつってくんねぇ。 てめぇが生まれるまで兄さま、ひとりぼっちだったんだ。もう兄さま、ひとりぼっちはヤだからさ。 ずーっと傍にいてくれ。な?」     俺は那智に魔法の呪文を唱える。 毎日のように、俺はこれを那智に言っていた。 俺がひとりにならないための、そして那智が俺をずっと必要としてくれるための、自作の呪文だ。 目を擦る那智は俺を見つめて、こっくりと頷いてきた。 「おれ、兄さま好きです。優しいですもん」 「そりゃ那智だから優しくするんだ」 「おれだから?」 「俺の大事な弟だよ。てめぇは」 へにゃっと幼い弟がはにかんでくる。 擦り寄ってくる弟は、「おなか減った」と元気よく俺に訴えてきた。 「わーったわーった。ちょっと待ってろ」 俺は弟の背中を叩きながら、手放していたお玉に手を伸ばす。 鍋からは三日連続かぎ続けているカレーの匂い。 明日はカレーじゃないといいな。俺は切に思った。
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