【序章】ふたりぼっち

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自室から廊下にて(PM08:29)。 叩く音、那智と母親の声が聞こえなくなる。   散々喚いた俺は喉がヒリヒリ痛んでいた。息をする度に痛みが襲う。 押しても引いても暴れても開かない自室の扉が開いたのは、声と音が聞こえなくなって数分後のこと。 母親が顔を出したと思ったら、俺の腕を掴んで廊下に引きずり出す。   俺は内心ビビリながら、「那智は?」おずおずと質問した。 どこかスッキリした顔を作る母親は、どこ吹く風で俺の質問をスルー。 きっと執拗に殴り続けて、あいつは気絶しちまったんだ。 「ガキのせいで、恋人にフラれた」 母親は素っ気無く俺に言う。 どうやら昨日連込んだ恋人は、母親を独身だと思っていたらしく、俺等子供がいたと気付くや否やフったらしい。 母親は毎度べつの恋人を連込む。 恋人と一緒に俺等を虐げることもあるし、逆に俺等の存在を隠そうと部屋に閉じ込める事がある。 今回は後者だった。 那智が部屋を出たせいで恋人にフラれた。 だから、あんなに執拗に那智を叩き続けたんだ。 「ガキなんて産むもんじゃねえな。邪魔なだけだ」 子供の前で悪態を付いてくる母親は、軽く肩を竦めて煙草をジャケットから取り出した。 俺は昔から母親にそんなことを言われ続けていた。 那智が生まれるまで、俺、ずっとずっと孤独の中で、こんなことを言われてた。 実の父親と久しぶりに一夜過ごして、那智を身篭って、なんとなく産んだらしいんだけど……こんな扱いされるなら俺も那智も生まれてこなかった方が良かった。つくづくそう思う。 「アヅッ!」 突然、煙草の先端が俺の腕に押し付けられた。 悲鳴を上げる俺に、母親が歪に笑みを浮かべる。 「次はあんたの番」 嗚呼、なんだ。そういう予定かよ。俺も殴られるのか。 どうせ俺、あんたのストレス発散道具だよ。 馬鹿みたいに冷静になる、俺がいた。
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