【序章】ふたりぼっち

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俺は体を引き摺って、這いながら寝ている弟の隣に辿り着くと寝転ぶことに成功する。 小さな体を抱き締めて、俺はさっきは出なかった気持ちを、涙を溢れさせた。 「ごめん、守ってやる言ったのに……那智ごめん」 今度は守る、守るから。 だから、必要としてくれ。那智。 嗚咽を噛み殺して弟を抱きすくめていると、「いたい?」蚊の鳴くような声が聞こえた。 目を開ければ、顔に生々しい痣を作った那智の姿。 ぼんやり目を開けてこっちを見つめてくる那智は、俺の頬を触ると、「イタイイタイとんでけ」子供らしい呪文を唱えてきた。 涙の量が増えた。 「那智……」 「泣かないで、泣かないで。にーさまが泣いていると、おれも悲しい」 ボロッと那智が涙を零す。 それを見て、俺は笑って見せた。 「馬鹿。兄さまはなっ、てめぇにもらい泣きしたんだ。泣いてねぇよ。泣いてっ、ねぇから」 「もらいなき?」    よく分からないと首を傾げる那智に一笑して、俺は弟の体を抱き締めなおす。 そして子守唄代わりの言葉を那智に向けた。 ―――那智、約束だ。 ―――約束? ―――ずーっと俺等は一緒だってこと。俺等、同じ血が流れてるんだ。心から信用できるのはお互いに兄弟しかいねぇんだし。分かるか? この意味。 ―――うーん。難しいです。おれ、兄さま大好きですよ? ―――あー……那智には難しかったか。じゃあ、分かりやすく、俺等、大人になっても一緒だ。 ずーっと、ずーっとさ。 いつかこの家を出て、二人で幸せに、のーんびり暮らそうな。 俺等、ずーっとずっとずっと一緒だぞ。
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