予感

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「もうほとんど乾いてるみたいだけどね」  去年の夏休みに切った髪はいまだに短くしていて、オレが風呂からあがるころには半分乾いていた。  それでもしっかり乾かさないと寝癖がつくし、自然乾燥は髪に悪いって聞いたからドライヤーで乾かしてやる。  これはオレの仕事。仕事っていうと義務みたいに聞こえるが、権利っていうか、斗眞の柔らかくてツルツルな髪を触るのが好きだからやってる。こうやって斗眞の髪を無遠慮にいつでも触れるのはオレだけの権利だから。  鏡に映る斗眞を見ると、目を閉じて気持ちよさそうに表情を緩めている。その顔を見てるとオレの顔も綻んで、いつまでもこうしていたいと思えてくる。 「はい、完了」 「ありがと」 「うん」  ドライヤーを一旦離すとそのまま後ろから抱きしめる。さっきより薄まった入浴剤の匂いの代わりにシャンプーの匂いがふわっと香り、その滑らかな髪に鼻先をうずめて肺いっぱいに匂いを吸い込んだ。
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