プロローグ 自己回帰

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一度失ったと思う…。 何も無い心に、無機質な躰。 感情も無く只過ぎて行く時間…。 いつからだろう? 自らの存在すら否定する自分。 あれからどの位経つのだろう? 少しは変われたのかな? 妻が居て子供も二人居る、 仕事も不満は有るが、遣り甲斐はある。 今想えば、 あれは1つのターニングポイントだったのだろう。 あの日、僕は夜勤明けで日勤者に対して 申し送りをしている最中だった。 書類に目をやりながら周りに話していると、 廊下から二人分の足音が聴こえて来た。 ふと顔を上げて見ると、何か説明しながら歩いて来る上司。 隣には背の低い女性…。イヤ、少女? 僕達の手前迄来ると、周りを見回しながら上司は言った。 「来週から来てくれる、本井さん」 紹介された彼女の方に目をやると、 不意に目が合い慌てて会釈する。 目が合って居たのは一瞬だったが、 その瞬間僕は変な違和感を覚えた。 あれ?この娘は…… 的な、ざわめく感覚だった事を今でも 覚えている。 少し時間を空けた後、 上司が皆の名前を順に少女に紹介して行く。 僕の番になり、 上司が名前を彼女に告げると、僕に向き直り一言こう言った。 「婚約者が居るから手を出すなよ?横川ー!」 「出さないッスよ!いきなりなんちゅう事言うんすか!」 途端に周りが爆笑する。 「じゃあ、本井さん行こうか!申し送り中にスマンな!続きして!」 と二人は僕達の前を後にした。
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