23人が本棚に入れています
本棚に追加
昔々の話。まだあの人がヒトだったころの話。
春の時期。綺麗な草花が揺れているところで一緒に散歩に来ていた。
「見て!これ綺麗じゃない?シロツメクサかぁ~、冠でもつくろっかな!」
「いいんじゃない?そこらの野兎にでもあげたらどうかな。」
本を開きながら冷静に返された。
「えぇ~!貴方は貰ってくれないの?」
ぷくっと頬を膨らませつつ手はひたすらに動かし馴れた手つきで花冠を作っていく。
「それこそ花が無駄だ、まったく。頬を膨らますのはやめなさい、いつまで子供気分のつもりなのか…後少ししたら昼になる、街に降りて食事でもしよう。」
言葉に膨らんでいた頬は嬉しそうになった。
「ねえ、このままずぅーっとこの時間が続けばいいのに。」
「…何故?」
花冠を完成させたようで隣に無造作に置く。そして空を仰ぎ見、
「だって、いつもは忙しいのにたまの休暇に私と遊んでくれてるじゃない。そして貴方の方が年上。……この時間は、制限がある。何故、同じ時を生きられないんだろうね。」
ふう、ひとつ溜息が近くで聞こえた。二人以外人は誰も見当たらないので自分の近くにいるのは一人しかいない。
「ひとつ、ひとつだけ言おう。」
パタン、と本を閉じる音がした。
「同じ時をずっと生きるのも魅力的なのは確か。でも、それはね、今だけを見つめている証拠。いつ、いなくなるのか自分でもわからないよ。でもね、それはそれで今だけを楽しむのとは違うと思うんだ。
貴方にわかるのはいつの話か。楽しみにしていようかな。」
そう言ったあなたの顔が思い出せないんだ。あなたは今どこに?
そしてあの憎たらしい人形はどこ。
最初のコメントを投稿しよう!