曖昧な嘘

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「こんばんわ、ゆきちゃん…」 待ちわびていた。 けれどそんな素振りは見せはしない…。 何事も無かったかのように微動だにせず、ゆきはパソコンに目を向ける。 「…お疲れ様でした、野田さん」 平静を装いそう返しはしたものの、心は安堵していた。 あの日から2週間ほど野田は現れなくなり、ゆきは落ち着かない心を懸命に鎮めながら、もう謝る事さえ出来ないんじゃないかと不安に駆られ、決して期待などせず、 返しそびれたままの手袋を大切に袋に入れていた。 「野田さん、先日は手袋…ありがとうございました…」 そう言って用意してあった袋をカウンターの下から取り出し台の上に置いた。 「わざわざ袋に入れなくても良かったんだよ? それに、新しいのを買ったしね。」 そう言ってコートのポケットから僅かに顔を出していた手袋を見せた。 「…ありがとうございました」 やり場の無い気持ちが浮かびはしたものの、それを振り切るように袋を前に突き出した。 「それ、あげるよ」 「…え……」 喜びとは言い難い感情だった。 憧れの人の身に付けて居たものを貰うと言う事は、普通に考えれば喜ばしい事で…けれど、ゆきの中は複雑に混乱していた。 「…綺麗ですよ?」 持っていた事で汚してしまったと、 まるで自身を切り捨てられたかの様な感情さえもが湧き上がった。
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