20人が本棚に入れています
本棚に追加
「こんばんわ、ゆきちゃん…」
待ちわびていた。
けれどそんな素振りは見せはしない…。
何事も無かったかのように微動だにせず、ゆきはパソコンに目を向ける。
「…お疲れ様でした、野田さん」
平静を装いそう返しはしたものの、心は安堵していた。
あの日から2週間ほど野田は現れなくなり、ゆきは落ち着かない心を懸命に鎮めながら、もう謝る事さえ出来ないんじゃないかと不安に駆られ、決して期待などせず、
返しそびれたままの手袋を大切に袋に入れていた。
「野田さん、先日は手袋…ありがとうございました…」
そう言って用意してあった袋をカウンターの下から取り出し台の上に置いた。
「わざわざ袋に入れなくても良かったんだよ?
それに、新しいのを買ったしね。」
そう言ってコートのポケットから僅かに顔を出していた手袋を見せた。
「…ありがとうございました」
やり場の無い気持ちが浮かびはしたものの、それを振り切るように袋を前に突き出した。
「それ、あげるよ」
「…え……」
喜びとは言い難い感情だった。
憧れの人の身に付けて居たものを貰うと言う事は、普通に考えれば喜ばしい事で…けれど、ゆきの中は複雑に混乱していた。
「…綺麗ですよ?」
持っていた事で汚してしまったと、
まるで自身を切り捨てられたかの様な感情さえもが湧き上がった。
最初のコメントを投稿しよう!