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「…まだ…まだ…だな…おま…えは…おれ…に永…遠に…追い…つけ…ない…」  恐ろしく間延びしたバリトンの声で、カザンが冷笑していた。「止水」はもうすこし加速可能な気がする。だが、それでも「呑龍(どんりゅう)」のブレーキ効果には、カザンのいう通り追いつけないだろう。脳内の生体クロックを生命の維持可能なぎりぎりまで遅くしてしまうのだ。東園寺(とうえんじ)家は2000年を超える一族の歴史をかけて、とんでもない秘伝を発展継承させてきたものだ。  カザンが光速のステップワークで、タツオの背後に回りこんだ。タツオは必死で集中していた。いつ意識を丸々刈りとられるような急所への一撃が襲ってくるかわからない。  そのときタツオの身体から、皮膚がはがれていく感覚があった。生皮をはがされるのだから、全身が焼きつくようなひどい痛みがあるに違いないと、タツオは顔をしかめた。だが、皮膚は身体から離れると、ふわふわと広がりながら空中に漂(ただよ)っている。表面積はいくぶんか広がっているようだ。おかしなことに身体は秋の夕風を受けたように涼しく気もちがよかった。
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