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「…寝て…いろ…その…あい…だに…全部…済ま…せて…やる…」  カザンは勝利を確信しているようだった。時間を引き延ばされ、極低音になった声でも笑いは感じとれた。 「…そう…だな…おま…えの…右腕…をも…らお…うか」  背後から声が揺れながら聞こえてくる。左右に身体を動かしつつ、つぎの攻撃を準備しているのだろう。 「…須佐(すさ)…乃男(のお)…の操(そう)…縦桿(じゅうかん)…を絶…対に…握れ…ない…よう…にな…」  タツオのなかには恐怖があった。怒りがあった。憎しみもあった。幼馴染(おさななじ)みなのに理解しあえない悲しみがあった。同時に瞬時にイメージがフラッシュバックする。左腕を開放骨折して、傷口から血で染まった白い骨を覗(のぞ)かせていたテル。端正な顔面を執拗(しつよう)に狙われて、青い痣(あざ)で両目がふさがりかかったジョージ。そして、タツオはイメージした。氾(はん)帝国やエウロペ連合の平野を、戦闘員非戦闘員を問わず殺戮(さつりく)しながら進軍する千体を超えるロボット機甲師団「須佐乃男」。操縦しているのは、操縦桿を変拍子で叩きながら哄笑(こうしょう)する東園寺崋山(かざん)だ。
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