119(承前)

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 覚えておこう。タツオは口のなかに血の味を感じながら心に刻んだ。フェイントから始まる二段構えの蹴打と殴打の複合技である。初めてこれを見せられて、避けられる者はまずいないだろう。ジョージならどう対応するか、ちらりとタツオは考えてみた。いや、「呑龍」に呑まれていたら、天才児でも対応は難しいかもしれない。 「…本来…なら…正拳…では…なく…脇差…を使…う…顔当…ての…隙間…を突…き止…めを…刺す…技だ…」  鋭く尖った脇差(わきざし)の先が脳に達すれば、それで戦闘は終了だ。今の打撃が刀なら、頬骨(ほおぼね)を割って、こめかみにある動脈を切断していたかもしれない。そうなれば、タツオは戦闘不能だっただろう。  ここまでの勝負で、タツオは何度もカザンに完敗しているのだ。武器をもって戦場で向かいあっているなら、実力差は圧倒的だ。  壁の大時計を見た。まだここまでに流れた時間は絶望的な90秒足らずだった。 「…つぎ…は古…流柔…術『緋(ひ)…連雀(れんじゃく)』…」
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