119(承前)

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 カザンは隠すことなく、哄笑(こうしょう)していた。楽しくて仕方ないのだろう。幼少の頃から叩(たた)きこまれた東園寺家伝来の古流柔術の奥義を3000人近い大観客の前で見せつけることができるのだ。しかも相手は憎き逆島(さかしま)家の次男坊で、幼い頃から学問でも運動でも敵(かな)わなかった断雄である。  全身のあちこちに損害を受けながら、タツオは狙っていた。この勝負には勝てなくともいい。ただ渾身(こんしん)の一撃をカザンに与えなければ、この先一生自分を許せないだろう。  タツオも苦しんでいたが、それは圧倒的に優勢なはずのカザンも同じだった。菱川(ひしかわ)浄児(じょうじ)との準決勝以来、顔色は紙のように青白く、全身を汗の粒が覆(おお)っている。連戦と連続して発動された「呑龍」の疲労で、体力も限界のはずだ。
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