フィボナッチの瞳

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窓から見える景色は昼と夜の間だった。 大沢が前さえ向けば、もう太陽が目線より下にある。なのに終了の鐘は一向にならない。 「ねえ、まだあ?」 後ろからけだるそうな、 「ほら、好きなもの! なんでもいいんだって!」 前からイライラとした声が聞こえる。 いや、四方八方から似たような声しかしない。なんせ彼らはこんな簡単だと思っていることに10分も付き合わされているのだ。 「…い、いい。」 『ああ、なんでもう四月末なのにこんな目に合わねえといけないんだ!』というのを心の奥底にしまって大沢は、見開き切った眼で辺りをギョロギョロと焦点が合わないように見渡した。 時間で言えば夕方、授業数で言えば6時間目。 新しい学年になった記念のレクリエーションの最中である。 種目はババ抜きで表情ばかりが素直に育った大沢は見事に他人に心を見透かされて最下位となり、『皆んなの前で好きな人を告白する』というバツゲームを受けていた。 「なんだよ!つまらねえな! ただでさえ好きな人じゃなくてものにしてやってるのに…」 「おら、男なんだシャキッとしろー!」 辺りのイライラはもう溜まりに溜まっている。それでも大沢は言わない。 それもそのはずだ。元々この大沢という男子高校生には好きなものなんて無い。別にいじめられたり無視されていて性格が歪んだ訳ではないが、自分で勝手にそうなってしまった。 大沢には近くの動くものを、確認するかのようにギョロリと凝視する癖がある。 ついでにそれに興味を持ってしまうが為にギラギラと目を不気味に輝かせてしまう癖もあった。そう見られると、誰でも少しは身を引いてしまう。 それに大沢の人への恐怖心と壮大な妄想癖が繋がってしまうのだ。 「ああ、こいつは俺が嫌いなんだ。」と それがかれこれ18年続いたのだ。 大沢は妄想のせいで自分を好きな人などいないと思ってしまい、その弊害で何もかにも嫌いになってしまったのだ。
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