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「この辺で、いいか?」
気がつくと、そこはもう見慣れたアパートの前で・・・
私は、「ありがとうございました」とお礼を言うと、ペコリと頭を下げて車から降りようとした。
のだけれど・・・
ふと、ずっと黙ったまま後部座席に座っている昂くんが気になって、後ろへ視線を向けた。
・・・すると
・・・スヤスヤ・・・スヤスヤ・・・スヤスヤ・・・
遅い時間だからだろう。 昂くんは天使のような顔をこちらへ向けて、一人夢の世界に旅立ってしまっていた。
「・・・フフフッ。」
助手席のドアを開け、一度外へ出ると・・・今度は、後部座席のドアを開けた。
間近で眺める昂くんの寝顔は、本当に天使のようで・・・
「おやすみ、昂くん・・・」
私は、そのプックリとした頬を撫でながら、そこにチュッと唇を落とした。
・・・その瞬間
運転席から見つめる視線に・・・運転席から私を見つめる優しい視線に・・・心臓が止まりそうになった。
「ご、ごめんなさい・・・思わず・・・」
「いや、べつに・・・」
優しかったはずの視線は、ぶつかった瞬間、色を失くし・・・また、いつもの無表情な透明に戻って行く。
ああ、いくら可愛かったとはいえ・・・何という事をしてしまったのだろう。
私と城崎さんの間には、「気恥ずかしい」という名の、何ともいたたまれない雰囲気だけが残った。
・・・これ以上の長居は、心臓に悪い。
「そ、それでは・・・おやすみなさいッ!」
私は、城崎さんに向かってもう一度ペコリと頭を下げると、逃げるようにその場を離れた。
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